辛辞苑
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#オペラ
アリア - ありあ
アリアとは、劇場の暗闇を切り裂き、観客の心に自己陶酔を植え付ける声の饗宴である。言葉や物語の脈絡を一時停止させ、美しい旋律だけで観客の拍手を独占する音声マジックだ。歌手は華麗に技巧を誇示し、台本の脚本家は人知れず舞台袖で疎外感に苛まれる。感情の本筋をあやつる装飾音符の裏側には、虚飾とナルシシズムの密かな共謀が渦巻いている。アリアはドラマの主人公を喰い尽くし、音の豪華さを至上とする自己顕示の極致となる。
レチタティーヴォ - れちたてぃーう゛ぉ
レチタティーヴォとは、物語を語ると言い張るくせに旋律から逃げ回る薄情な音楽上の語り部。または役者と歌手の狭間で揺れる中途半端芸。舞台のドラマを担うくせに、アリアに比べれば地味な普段着で舞台をウロウロし、聴衆には演技力か歌唱力かを選ばせる。音符の羅列を言葉にくっつけただけで演劇的深みを主張し、指揮者には「自由だ!」と言われながら巧妙に自由を奪われる。結局、物語の命綱と称する雰囲気要員として舞台上にひっそり息づくペテン師。
序曲 - じょきょく
序曲は観客の耳をくすぐる儀式的な予告編であり、本編を待つ間の時間稼ぎに他ならない。壮大な調べで華々しく幕を開け、実は本編の内容をほとんど裏切る、その美しい嘘の序章。作曲家の自尊心と演奏者のやる気を同時に過剰投与する危険薬物。劇場の照明が落ち観客のスマートフォンが一斉に光を失う瞬間、ようやくまともに聴かれ始める慈悲深い導入部。終わる頃にはすっかり本編への期待を踊らせ、同時にこれがただの前座だったことを思い出させる残酷な祝典である。